建築人 No.544 2009.10

ニューヨークにおける環境デザイン / 海部 哲

今春ニューヨークを訪れた。マンハッタンには、様々な時代を代表する建築が競い合うように混在しているが、最新のプロジェクトについて感想も含め報告したい。

 エンパイアステートビルから眺めるミッドタウンの夜景に、ひときわ輝きを見せるのは≪ニューヨークタイムズビル≫である。2000年にコンペで選ばれたこの作品は、日射をコントロールするセラミック・シリンダーにより、透過性と室内環境の快適性を同時に実現している。1階ロビーは自由に出入りができ、外観同様に雰囲気も開放的だ。
ニューヨークタイムズビルが面する8番街を北上すると、セントラルパークのほど近くに≪ハーストタワー≫が見えてくる。総合通信企業であるハースト社の新社屋を、1928年に完成したアールデコ調の旧建物(1998年に歴史的重要建築物に指定)を基壇とし、その上にダイアグリッドの外殻構造をもつタワーが挿入されている。新旧が取り合う6層吹抜けのアトリウムには、タワースカート部分から巧みに自然光が取り込まれ、様式の異なる2つの建物がそれぞれの特徴を損なうことなく見事に調和している。

ハドソン川に面する倉庫街の中に突如として現れる≪IAC ビルディング≫は、インターネット複合企業インターアクティブのオフィスである。風になびくような形態は、イタリアのパルマスティリザ製ガラスで形成されており、これら1437枚のうち1349枚に独特のねじりを持たせている。構造はRCでフラットスラブと、外周に配置された傾斜した柱により構成されているが、内部空間は阻害されることがなく、快適なオフィス空間を創出している。

グランド・ゼロにおけるプロジェクトの多くは、現在基礎工事中であるが、2006年先行して≪7WTC≫が完成している。WTCの入口に立つ52階建、約16万㎡のオフィスビルの下層階には、ダウンタウンに電力を送る変電所が入っている。その外装には、2層のステンレス製プリズムワイヤーが、特別なパターンと回転角で溶接されており、変電所が必要とする換気量を確保しながら、太陽の光を様々な角度に反射させ、きらびやかに輝く。夜間はプログラムされたLEDシーケンスを用いたイルミネーションにより、昼間とは全く違った様相を見せている。

訪れた当時はまだ工事中だったが、≪バンクオブアメリカタワー≫が完成した。上昇する視線とともにその存在感が弱まるよう内側に傾斜し、水平のひだと垂直のラインが光を捉える透明でクリスタルな構造である。その外観以上に注目を集めているのは、エコフレンドリーな設計であり、ニューヨークで最も環境調和型の超高層ビルであると称賛されている。この地は19世紀、ニューヨーク万博のクリスタルパレスが建っていた場所であり、現代のクリスタルパレスは超高層デザインにおける前衛的な考え方を導いている。

これらの新しい建築に共通するのは、いずれもLEED(米の環境性能評価システム)の最高ランクを獲得するなど、高度なサスティナブナルデザインが採用されていることだが、性能としての環境にとどまらず、これまで積み重ねられてきた固有の空間と歴史的文脈との深い対話により、アートや建築と一体となって、新たなスタイルをマンハッタンの歴史に刻んでいる。
今後注目されるプロジェクトはSKYSCRAPERSの表紙を飾る≪ツール・ド・ベール≫(ジャン・ヌーベル、352m、2012)だろう。MOMAに隣接し、高級マンションや高級ホテルが計画されている。ガラスの外観を織り成す一連の不規則な角度のクロスブレイスに、換気装置を内蔵する格子状の仕切りからなる2層構造により、さらにその質を高めるよう意図されている。