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<オランダ通信> 水辺の国土計画と水辺都市

建築人 No.538 2009.4
オランダにおける都市・住宅整備と水辺利用 / 鈴木 綾香

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はじめに
 神は世界を造りたもうたが、オランダはオランダ人が造った―これは、オランダ人が胸をはって口にする有名な言葉です。またこの言葉は、13世紀から始まった干拓事業をはじめとする治水政策が、オランダ都市計画史の中でどれだけ重要かを示しています。本稿では、オランダの都市計画の特色と、2008年10月に芝浦工業大学・松下潤教授によるオランダ調査研究旅行へ同行した際に訪れた、新興住宅地をはじめとするオランダの水辺住宅について紹介します。

国土と水環境
ライン川下流の低湿地帯に位置し、国土の1/4が海面下にあるオランダでは、古くから高潮の被害に悩まされてきました。オランダの国土は関東平野とほぼ同じ面積ですが、その多くが、遠浅の海岸に防波堤を築き、風車で水を汲み出して農地としたポルダー(polder)と呼ばれる干拓地です。アムステルダムから西、あるいは北へ向かう車窓からは、都市部を過ぎた頃から見渡す限りの田園風景が広がります。線路や道路のすぐそばで放牧されている牛、馬、あるいは羊やガチョウなどを囲う柵はほとんど見られず、細い水路が田圃のあぜ道のように縦横に走っているだけです。しかも水面と放牧地との高低差はほとんどなく、雨が降れば溢れそうにも見えます。どこまでも広くぬかるんだ緑の農作地帯が、オランダ人にとっての原風景でしょう。
 首都圏のすぐそばに位置するこの広大な緑地は、その形状からグリーンハートと呼ばれ、ランドスタッド(Randstad/首都圏域)内で土地利用制度により保全されてきた地域です。オランダの国土計画は、関係する複数の省庁が連携して策定され、それに即す形でBmプラン(Bestermmingsplan)が市町村にて策定されます。これには、治水・環境・農業など全ての見地から制約される土地利用規制が含まれており、該当する地区のBmプランだけで、用途地域・建築行為の可否などを一元的・網羅的に照会できる仕組みになっています。オランダは、グリーンハートの保全をはじめ、環境と治水、土地利用管理を一体的に捕えた政策的な取り組みが、比較的早くから見られた国なのです。

image2都市計画と水辺
 オランダの干拓の歴史は高潮対策から始まりましたが、1958年のDelta Actにより、北海の沿岸に強固な防潮提が築かれて以降、高潮対策と都市計画・河川関係の治水は別々の計画が策定されています。現在、オランダの内水対策で重要視されているものが、21世紀の水管理政策に記載されている、”retain(保水)→store(貯留)→drain(排水)”の原則です。これは、降水量の増加に対してやみくもに雨水を排除するのではなく、まずは保水、その次に貯留するよう呼びかけ、水を受容することが治水の新しい理念であると謳ったものです。この考えは、主要な国土計画である国土空間戦略(spatial/physical)にも記載され、同時に、住宅地を開発するにあたって、治水を通じて水と緑を取り入れるように奨励されています。昨今では、こうした状況下で治水上整備される水辺(保水空間)が、憩いのスペースとして住宅の付加価値となり、既成市街地の周辺で水辺環境の整備された新しい住宅地が開発されるようになりました。以下に、その一例を紹介します。
水辺主体の住宅計画事例―太陽と水の街image3
アムステルダムより北西へ車で1時間程度、北ホラント群ヘールフホワールト市(Heerfugowaard、以下H市)に位置するStad van de Zon(意味:太陽の街)は、H市の開発による新興の住宅地です。その名の通り、一部の高級戸建分譲住宅を除き、集合住宅、賃貸に関らず太陽光発電(PV)システムを搭載した住戸すべてにおいて、居住者がPVシステムを所有し、発電量に合わせて住戸内で消費できるシステムを採用した画期的な事例です。2003年から入居が始まり、2008年10月現在、一部のブロックを除きほぼ完成しています。
この地域の特筆すべきもう一つの特徴は、周辺の水辺環境にあります。75haの湖に特徴的な人工の島を浮かべた形状で、その周囲には自然水(自然の湿地帯、水路)を利用したリング状の運河が走っています。湖の水位は運河の最高水位よりおよそ1m高い位置に計画され、大雨等で増水した場合のオーバーフローは運河へ自然流下されます。湖は、その水質ごとに水泳等のレクレーションブロック、ボート遊び等の親水ブロック及び葦原などで構成される緑地ブロックの3つに区分され、最も水質の良いレクレーションブロックからの水はポンプステーションによりこの緑地へ排出される仕組みになっています。その後、自然の浄化システムにて徐々に浄化されながら、湖を循環していく仕組みになっています。H市では、この住宅地整備にあたり、市主体で水質汚染度のシミュレーションや季節毎の珪藻類発生の観察、造成後2年間に渡る緑地ブロックの汚泥除去等の水辺管理が行われました。(現在の水質維持・管理は民間会社に委ねられています。)循環・浄化までが計画された事例は画期的で国内外からも注目度が高く、今後住区の付近に国道の建設計画もあり、今後の管理状況・発展と共に新規プロジェクトへの影響が期待されています。image4

 Stad van de Zonの他にも、オランダには水辺を積極的に取り入れ、住環境の向上に繋げている住宅の例が多く見られます。オランダの建築家は、主に都市計画や基本計画に携わる傾向にあり、新興の住宅地では街区全体がコンペ等によって建築家に任されるケースも少なくありません。今回、前述地域の他にこうした新興の地区を二ヶ所訪問し、水辺計画を中心として視察を行いました。以下にその特徴を紹介します。
・ハーグ市(Den haag)Ypenburg地区:軍の敷地を宅地として民間に解放し、約20%を水面として住宅計画が行われた地域。オランダでは一般的な長屋形式の住宅棟と、それに平行する直線的な水路によって計画されている。水路で区切られた住区毎に設計する建築家が割り当てられ、特徴的な住宅が並ぶ住区も見られる。
・アムステルダム近郊 Ijburg地区:アムステルダム東側のアイ湖に人工の島を埋立て、4万5千人分の住宅地を建設する開発地区。2000年に着工し、2012年竣工予定。(遅れる見通し。)人工島は大きく分けて7つが造成され、島の外周部分の住宅は湖もしくは水路に向かって計画されている。格子状に区画された住区が建築家に割り振られ、主に住宅、学校やスポーツセンター等の施設やオフィスが計画される。image5

まとめとして
国土空間戦略では、都市住民の要望として「水と緑に満ちたオープンスペースの確保」を明記し、保水空間を設けることの意義として、水と緑による景観形成や、都市のアイデンティティ・付加価値の高い住宅地やレクリエーション機能・生態系の保全を挙げています。日本でも近年の自然環境への意識の高まりを受け、河川を軸とし、水と緑のネットワークの構築を礎とした都市環境向上へ向けた取り組みが始まり、その波及効果が期待されています。しかしながら、東京圏の人口がオランダの全人口とほぼ同じであるなど、基本的な条件を鑑みても、同様の効果をもたらす手法と同じような景観・都市アメニティの構築を目指すことは必ずしも一致しないでしょう。しかしながら、同じように水害対策に力を入れてきた地域の、都市と水環境の関連性に対する現時点での解答の一つとして、既存の水辺を生かし、都市生活に取り込んで共生する姿勢やその手法からは、学ぶべきことが多いのではないでしょうか。

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