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これからの公立中学校のあり方を巡って~新宿区西早稲田中学校の試み~
人生のうち最も多感な青春時代を過ごす中学校、なかでも公立中学校は国の人材育成の基盤を担う義務教育の場であり、大都市にあっては特に貴重な緑を保全できる空地としての大切な役割を持つ地域交流と防災ネットワークの拠点である。本計画においては今まで幾多の学校を設計する上で、常に課題としてきた項目について、関係者のご理解のもと実現できた点について以下に述べたい。
◇地域のシンボルとしての愛着を育む学校・新しい個性、西早稲田中学校らしさの創出
山手線内で有数の校地面積を有していた旧戸塚第一中学校と旧戸山中学校を統合して生まれた西早稲田中学校の空間的特長を活かすため、校舎および体育館を極力北側に集約し、校庭を最大限に確保するよう配置した。伸びやかなフォルムとリズミカルなデザインを基調として、無限の可能性を秘めた生徒たちの未来への思いを込めた。統合された両校の同窓生や地域住民の思いを新しい施設に継承するため、玄関正面にメモリアルコーナーを設け、図書館、コンピュータールームとともに情報ゾーンとしてまとめ、地域活動拠点としての導線管理や開放可能な諸室とともに構成して、旧校それぞれの懐かしいイメージを、保存された樹木や玄関から校庭を望むシーンなどの空間に織り込んだ。また交通量の多い明治通り側には高木を列植して修景し、観客席を上部に有する倉庫棟(防災倉庫、外部便所を含む)を配し、騒音・排ガスに対する緩衝帯としている。
◇コミュニケーションの場としての中学校:集まって学ぶ意味を考える
情報化社会において単に決められた履修範囲の知識を習得するだけなら、在宅でも可能である。同じ年代の生徒を一同に集めて、人生の先輩である教師から教えを受けるという「学びあう空間」は集中して取り組むことの出来る適切な学習環境と、緊張を緩和し友情や信頼を醸成する内外の共用部が、有機的に連結した構成でありたい。本計画においては管理・各教室の相互関係に配慮した明快なゾーニングを基本とし、それぞれの結節点に中庭や交流スペースを設けて、対話を促進する空間創りに努めた。
◇快適な学習環境の整備・光・音・温熱環境と構造への提案
執務環境を整備して業績の向上をはかることが、オフィス空間設計の常識であるように、教育環境を整備して学習効果に結びつけることを、重要課題と考えた。構造計画においては、従来の梁柱で構成するラーメン構造を進化させた厚肉床壁構造の採用によって、梁型を無くして開口高さを上げるとともに、外部にメンテナンスデッキを設けて窓面の腰高を下げ、視界を広げて自然採光を有効活用している。多人数が同時に行動するという学校教室の特性を考慮し、床版にボイドスラブを採用して、下階への振動、騒音を抑え、天井および後型壁面の吸音性能を高めて音環境の向上をはかった。また、外断熱・ペアガラスを採用して、冷暖房および全熱交換機による換気設備、さらに中間期の対応と適切な空気循環をはかるために扇風機を設置して、快適な空調計画による温熱環境の適正化に努めた。
◇総合的・複合的な環境共生技術導入の必要性:社会ストックとしての学校
環境負荷の低減に最も大切なことは、地域の財産として、耐震・耐久性に優れた建築を創ることと、交換可能な設備配管や付属部品への配慮である。耐用年数を延ばせば、改築という最大の環境負荷を抑制することが可能であり、財政負担を軽減することも出来る。また、生徒たちの貴重な時間や学習機会を建設により阻害される期間も短くなる。外断熱工法の採用は、断熱性能の改善だけでなく、むしろ建物の長寿命化に貢献度が高く、工事費の増加を耐用年数の延長により分割し、単年度あたりのコスト低減をはかるという発想の転換も必要である。
環境教育の実践も不可欠な課題である。本計画においては、高断熱、自然通風、採光を大切にしながら、初期照度補正や人感センターによる自動点滅方式を採用した照明、ヒートアイランド対策としての屋上庭園や壁面緑化、教育的効果を考慮して貯留タンクを露出設置した底面保水式パレット工法と自動灌水による雨水利用システム、地下水保全のための透水性舗装、風力・太陽光発電など、多様な要素技術の採用が学校から家庭へと省エネ省資源に関する意識の普及をはかる役割を担うことを期待している。また生活空間としての安心安全な場を提供するため自然素材の採用を心掛け、教室の壁・天井にはホルムアルデヒドの吸着分解や調湿効果のある漆喰塗料を使用している。
しかし本来は、単品、付加的な環境共生技術の導入より、総合的、複合的な視野を持って設計に盛り込んでいくことが大切であり、建築・構造・設備の融和した質の高い空間を目指したいと考えている。
◇豊かな心を育む空間:多様な文化交流の場
精神修養の場としての武道場と和室(茶室)は日常の学校生活から心を切り替え、礼儀作法や伝統への関心を深めることを目的とする場としてデザインした。体育館は、屋外の運動場との相互利用や式典への対応、また内外の舞台が表裏一体に利用できるよう多用な活動を可能する構成とし、空調環境などにも配慮している。また音楽室には個別練習のための防音室が設けられているなど、豊かな人間性を醸成するための芸術・文化活動を支える空間が用意されている。生徒達の自主的・創造的活動や、交流の輪が広がっていくことを期待している。
◇夢のある公立学校をめざして:未来を担う子ども達へ
学校施設整備を市民に対する最重要課題と考えるか、旧来の考え方で文字通り義務的な標準整備を繰り返すかで、地域格差が鮮明になってきているように思われる。厳しい経済環境の中で、耐震化を進めるのも困難なのが現状だが、心身ともに健康で、時代のニーズに応えうる生徒本位の学校づくりが、子育て支援と地域活性化の原点ではないだろうか。国際情勢を考えてみても、暫定的整備や実験計画から脱却した社会資産としての教育環境整備が急務である。私達がかつて受けてきた以上の、公的支援や師からの恩を次の世代へと継承していくためには、学校関係者だけでなく、社会全体で取り組んでいかなければならない。





