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大阪府立今宮高等学校の開閉式プール上屋について

大阪府立今宮高等学校

1997年3月[NO.6]ステンレス建築

1. 大阪府立今宮高等学校は明治39年3月、府立第10番目の中学校として設置され昭和23年4月、学制改革により今宮高等学校と改称、昨年創立90周年を向かえた府下屈指の伝統を誇っている。平成8年には大阪のモデルスクールとして総合学科が開設され、生徒一人一人の個性、創造性を伸ばすため自由な選択科目や少人数指導をとりいれた教育改革の中心的役割を担うこととなった。

 同校の改築設計にあたっての課題はその更新に当たり可能な限り学校運営に支障を与えず、尚かつその歴史と伝統にふさわしい校舎を設計することであった。旧校舎は日本建築学会による「建築学的に見て基調と思われる近代建築二千棟」のリストの中に、北野高等学校校舎とともに上げられており、縦線を強調したモダンな外観に特徴を持つ個性的な学校建築であった。新校舎はこの旧校舎と対峙して建設されることとなり、改築の意義を客観的に体現することが暗に求められていた。image01

2.配置計画
 配置計画にあたっては、近隣への影響の少ない国道側に校舎を設置する案と、旧プールのあった敷地南東面に建てる案など数案が検討されたが、大阪の南の都心にあり、心の切り替えをはかりうるアプローチが特徴的で、騒音や振動の影響の少ない後者の案が採用された。地上にあった旧プールは、外部からのガラスビンの投げ込みや不法侵入、グランド、道路、工場からの砂ぼこりや煤煙の混入などの問題が指摘されており、屋上化、屋内化への強い要望が当初からなされていた。当時府立高校として前例のなかった提案に対し、財政上及び他校との公平さが障壁となり、交渉は難航を極めたが同様の要望を持つ他の2校とともに認められる事となった。方針としての承認は得られたものの経済的、技術的課題は多く、屋上に設置することによる荷重、設備負担の増や実績をもつメーカーの少なさ(開閉システムに関する一般、個別認定取得工法、業者)また、屋内化に伴う法的配慮(2方向避難、防火区画等)など、短期間に検討すべき内容が山積していた。

3.材料の選定
 使用材については、鉄、アルミ、ステンレス、膜構造を平行して検討を進めたが、アルミについては耐火上、膜構造(A種膜材・四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維布)については透明感を重視する空間意匠上の理由から不採用とし、鉄、ステンレスに絞り込む事となり、鉄は高温多湿に加え可動による摩擦や振動などの悪条件下では発錆による劣化が避けられない事から、ライフサイクルコストを重視して、耐久性に富むステンレスに決定した。しかし、ガラス留材及び納まりの検討(シール劣化による漏水の未然防止)防錆や駆動システムのメンテナンスなど改善すべき今後の課題も残されている。

4.開閉システム
 開閉システムについては、短軸方向に平行スライドして開く方式とドーム曲面に沿って長軸方向に開く方式が検討された。開放、閉鎖時両方の空間における光環境、方向性や開放感の強調を理由として、後者を望ましいと考えていたが、機構の単純性、経済性、また実績数から最後まで両方式の検討比較を続けた。この様に開閉屋根付屋上プールにおいては、学校建設の企画段階において経済的、技術的に確定して進めることが難しく設計にあたっては将来性を視野に入れた柔軟な姿勢を必要とした。
 本件の場合、理想形を求めて全体を設計し、状況(予算)にあわせて削減していく方法をとったが、もし逆であれば構造の再計算や申請協議のやり直しなど多大な手戻りを生じさせていたであろう。具体的には開閉屋根支持柱にあらかじめ荷重を想定し、屋上プールに必要な防風壁と一体に計画し、屋根設置時に生ずるモーメントを考慮した柱形状として屋根設置の有無に拘らず空間構成上、意匠上変化の少ないデザインとした。近代主義、合理主義が高度成長経済と重なり学校建築の平均化、無個性化をもたらしたが、近年、学校そのもののあり方も含め社会的な論議を巻き起こしている。

5.ステンレス材に思うこと
 本計画においては、限られた予算の中で、奇抜な形態や外装材のグレードアップへの誘惑を断ちきり、建築の耐久性を重視して着色ステンレス葺のドーム屋根を連続させ、内部の光環境を考慮した水平庇や旧校舎のイメージを継承しながら彫りの深い外壁の表情を演出する縦ルーバーが豊かな内部空間を創出する様計画した。屋根材の選定にあたっても、銅版、表面処理亜鉛合金板など比較検討の上、耐火性、経済性(価格競争の自由性)によりステンレスが採用されたが、その硬さゆえの屋根面へのなじみの悪さや塗装仕上げであることによる材料としての奥行きの乏しさなど、機能的特徴を生かす事のできる加工性、意匠性の向上が今後の課題と思われる。

6.アメニティ環境に配慮
 今宮高校のもうひとつの大きな特徴として学校内の緑や空間的広がりを視覚的に開放し、アメニティ向上による地域貢献をはかった事が挙げられる。旧校舎の外周はコンクリートブロック塀となっていて閉鎖的な印象があったが、校舎のデザインと一体に計画された縦ラインの柵とすることで、防犯上その他の監視性能も向上し、校庭に咲く四季折々の花が、道行く人々を楽しませている。地域と学校の交流の第1歩として今後の良好な関係への期待を抱いている。この柵についてもアルミ、鉄、ステンレスそれぞれについて、様々な観点から比較検討が行われたが、アルミについては表面強度が、ステンレスにおいては経済性が主な理由となり、粉体塗装によるスチール製を採用することとなった。外部の厳しい環境を配慮すればステンレスが望ましいと考えていたが、普及に際しては、経済性そのものより高級イメージ、ぜいたく品という感覚が以外にもその障壁となっていることが印象として残った。

7.おわりに
 建築生産の中に埋もれてしまっている思考の過程と検討のプロセスを思い入れも含めて書き綴ったが、建築は竣工をもって終わりでなく、利用者にとってはそこからが始まりである。
 耐久性のある建築を創ることは環境共生を考える上でもまた重要なテーマである。量から質への転換が叫ばれて久しいが、依然として、スクラップアンドビルド、経済至上主義からの脱却には時間がかかりそうである。良い建築は時間とともにその価値を高めていくが、評価は時を待たずに行われていく。建築とその創造的行為について社会的関心を高めることは、それに関わる者の重大な責務であるが、本質にまで踏みこんだ文化的に質の高い議論を呼び起こすためにはより一層の努力が必要であろう。高齢社会が成熟社会であるという理想が、建築や都市空間において具現化することを目指して努力していきたいと考えている。

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