トップページ > ゆずり葉の歩みトップ > コラム > 第1回住み慣れた我が家を維持しつつ、安心・快適を加えるリフォーム
第1回住み慣れた我が家を維持しつつ、安心・快適を加えるリフォーム
◇もとの姿に再生するのもリフォームの大切な仕事
住宅のリフォームというと、新築そっくりに生まれ変わるイメージが一般的ですが、高度な技術を駆使して、昔のままに再生するというスタイルも、リフォームの重要な役割のひとつです。とくに、建築的に文化価値の高い建物などは、外観はさわることなく、強度や安全性を高めてリフォームすることが求められます。
阪神大震災直後、半壊状態になった芦屋のある邸宅から、リフォームを依頼されたことがありますが、その時も「もとの姿に戻してほしい」というのが施主の要望でした。この邸宅は、谷崎文学の映画撮影にも使われたことがある素晴らしい日本建築で、そのままの姿で残していくことに大きな意義があります。ところが、震災時の激しい縦揺れで、屋根棟が母屋から吹っ飛ばされてはずれた状態になっていました。ゼネコンに相談したところ、「撤去解体して新築する方が簡単」といわれ、私に相談がありました。
ゼネコンの指摘はある意味正しくて、技術的にもコスト的にも新しい建物を建て直す方がはるかに楽だし効率的です。しかしそれでは、ここまで維持されてきた名建築が、歴史の中から消えていくことになります。こういう時こそ、高度なリフォーム技術が求められます。
丁寧につくられた日本の木造住宅というのはたいしたもので、上手に補強したり、リフレッシュしてやれば、それぞれの部材はそのまま使えます。ですから、優秀な大工の手にかかれば、昔のままの姿に戻すのは、そう難しいことではありません。この時も、端麗な過日の建物をそのまま甦らせることができました。
お住まいのご家族には、高齢者がおられましたので、住宅用エレベーターを設置するなど、随所にバリアフリー改修を施し、生活の快適度は格段に向上させることができました。外見はそのままに、中は安心・快適にという、リフォームの基本形です。
◇“うつし”は「型を踏襲する」日本の伝統的な技法
同 じく芦屋のあるお宅からは、「住み慣れた家をそのまま都心部に移築してほしい」という依頼を受けたことがあります。日本住宅の古材には、今では入手できな いような希少な木材が使われていることが多く、この邸宅でも廊下の1枚板など、見事な古材が多数ありました。そうした部材にはすべてプレーナー(カンナ) をかけてリフレッシュさせ、新しい住宅にそのまま使います。そうすると、見た目は新築同様ですが、長年見慣れた住宅の古材が使われているわけですから、室内にはどこか懐かしくて温かい空気感が漂います。本物素材だからこそできる、とても贅沢なリフォームのひとつだと思います。
こ のお宅には、見事な座敷がありましたので、この部屋だけはそのまま移築することにしました。こうした作業は、日本の文化芸術に古くからある、“うつし”と いう技法と同じです。このように、古き良さを引き継ぎながら、新しい場所の良さを生かすという創造的な作業が、リフォームには求められます。
伝統芸能や工芸の世界ではよく、「型を踏襲する」という表現を使いますが、うつしとは先人の優れたデザインやテクニックを、そのまま使わせてもらうというや り方です。そこには、素晴らしい資産を遺してくれた先人に対するリスペクトの心があり、完成された美は何の手を加えなくても美しい、だからそのまま踏襲す べきという考え方があります。
建築の世界でも、うつしの技法はよく使われますが、文化伝統に対する深い造詣が必要になりますので、なまじっかな新築よりクリエイティブな作業といえます。 そういう意味でもリフォームは、高度な技術力と創造性が求められる仕事です。新築が中心の建築士や大工ではできないリフォームなども多々あり、技能レベル差がはっきり出てくる分野です。
◇リフォームで見直される和の空間づくり
しっ かりした日本建築の価値が見直されているように、最近のリフォームでは、和の空間づくりを依頼されるケースが増えています。和の空間のエッセンスという と、縁側に代表されるような中間的な領域です。間の取り方や、やわらかく区切るといった役割を持った空間をしつらえると和のムードがより上手に演出できます。
また、和は薄くて軽いという特長もあります。そこから、十二単や襲の色目のような、重ねや合わせの文化が生まれたわけで、室内をデザインする際にも、軽快で薄いものを多く重ねるようにすると、センスよく和のエッセンスを取り込むことができます。




